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2013年10月

「「極限芸術〜死刑囚の表現〜」展について」 ――櫛野展正氏(鞆の津ミュージアム)を迎えて

今月の「現場」研究会は、今年の4月~7月に、広島県の鞆の津ミュージアムで開催された「極限芸術~死刑囚の絵画~」展について、鞆の津ミュージアムアートディレクターの櫛野展正氏よりお話を伺った。

櫛野氏の基本方針は「人の行動に関心がある」ということ。
2012年に広島のギャラリー喫茶で「死刑囚の絵展」を見た櫛野氏は、
こういった展覧会が、これまで、死刑廃止制度等の点からではなく、死刑囚の表現活動という、美術側からのアプローチが全くされてこなかったことを知り、鞆の津ミュージアムでの開催に至った。
 
今回の展覧会は、死刑廃止を求める団体である大道寺幸子基金が毎年開催している死刑囚対象の公募展に出品された作品のうちの絵画作品のみの展示。
大道寺幸子基金では、フィクション、ノンフィクション、詩、俳句、短歌、漫画、絵画、イラスト、書を公募の対象にしているが、このジャンルは、それぞれ、死刑囚の制限された生活の中で出来得ることを理由に設定されているとのこと。
現在、日本には死刑囚が130余名おり、その中の35人が絵画部門に出品しているが、拘置所に入る前に絵画を手掛けていた人物はほんの数名で、多くは拘置所に入ってから始めたとのこと。
 
画材は面会人による差し入れや、自身が拘置所内の売店で購入したものなどが用いられているが、拘置所内では死刑囚に対する「心情の安定」という面から制約も多く、拘置所によっては「ボールペンは持ち込み不可」や「色鉛筆は数色まで」などということも。
絵の具は自殺防止のために使用を許されていない。
こういった環境から、死刑囚によっては、食事の味噌汁やコーヒーの粉で彩色するなどの工夫が見られる。
 
櫛野氏曰く「ミクロの作風になっていく人が多い」とのこと。
出品作品には、画面上にモチーフや文字がぎっちりと描き込まれたものや、ちぎり絵など、細かくて時間がかかりそうな作品もよく見受けられるが、死刑囚がこうした作品を次第に作るようになっていく背景には、
「この作品が仕上がるまでは自分は死なない」という願掛けをする人が多いからだとか。
 
櫛野氏は、「死刑囚」というよりも「純粋に表現活動を見せたい!」という思いで展覧会を開催したが、
実際には「死刑囚」という観点が来館者を惹きつけている。
矛盾かもしれないが、それによって多くの人の目に触れるので、少しでも興味を持ってもらえたら、いろいろ考えるきっかけになれば、との思いでいるとのこと。

「極限芸術~死刑囚の絵画~」展は、会場が広島県であることや展覧会図録が作成されていないこともあり実態が掴めずにいたが、今回、櫛野氏にお話をいただいたことでだいぶ詳しく知ることができた。
普段、なかなか知ることがない貴重な内容ということもあり、時間が過ぎるのも忘れてじっと聴き入った回であった。

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