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「Depth」-漆の場より-
ニューヨークでの個展を終えて

田中信行(漆芸家)

田中信行作品

 2004年5月末から約1ヶ月間、ニューヨークにあるKOICHI YANAGI Oriental Fine Arts ギャラリーで私の個展が開催された。

  今回は私の今までの仕事を紹介するということで、漆を磨いた作品とはまったく違う質感の荒々しいマチエールで見せた10年程前の作品「原形Ⅰ」から、今年 の1月(*)に資生堂ギャラリーで行われたlife/art 展で発表した作品「Depth」などを含む旧作から最新作まで計10点の展示となった。

 ギャラリーはアッパーイーストサイドの一角にあり、現在も住居として使われている建物の2,3階をギャラリーとして改築したものである。「Depth」を展示した部屋は、白を基調とした暖炉のある部屋で、今も日常的な生活空間の面影が感じられた。

 洋風の日常的な空間と床に広がる漆黒の非日常的な世界。異なる背景をもったもの同士が出会うことによってどのような世界がつくられるのか、が今回私の最も興味のあるところだった。

 設置された「Depth」は私の予想以上に作品と空間が一体となって別の世界を形成していた。手仕事の積み重ねによって引き出される独特の密度をともなった漆面が、周囲の景色をとりこみながら時空を超えて存在しているように私には感じられた。

 風土の異なる場でそのような漆黒の深い輝きを見ていると、改めて漆の魅力、強度、塗るということの意味について考えさせられた。

  つまり、漆を塗るということは、保護と美観の役割はもちろんのこと、ものであれ場であれ、その対象を大事にとどめようとする心が、観念的かもしれないが、 別の次元へと高める意味があるのではないか、さらには精神を浄化させるもの・場へと変容させる行為として考えられるのではないかと。

  私の制作活動はギャラリー等で発表することも含めて欧米の美術の考え方にいやおうなく影響を受けていると言えるが、ニューヨークで私の作品と向き合うなか で、私にとって漆を塗るということの意味は、絵画や彫刻という方法を信じて個をとどめようとする行為とは全く違う文脈として位置づけられるのではないかと 強く感じた。

 今回、日本を離れ自分の作品を見つめる機会を得たことが、これからの自分のするべき仕事の方向に多くの示唆を与えてくれたように思う。

(2004年10月)

(*)2004年当時

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