黒々とした二本の樹幹が――画面中央のやや左寄りに――向かい合って直立している。樹幹は、まるでゲートのようだ。このゲートは開かれていながら、閉ざされている。そそりたつ光の壁が行く手をはばみ、あるかなきかの複雑な顔料の厚みが凝視する視線を招き寄せるのだ。ゲートの左右に奥まってゆく樹林らしき影の一列が空間を予想させるが、ゲートは、光によって閉ざされたまま決して開かれはしない。木々の倒立像を映す凍える地平は、深さの次元へと視線を誘いながら、絶えず表面へと差し戻す。左右の樹林に沿って奥へと進む視線は、むなしく左右へと逸らされ、地平を滑走して、ふたたびゲートの前に到達する。アシンメトリカルな構図が、この運動を加速していることはいうまでもない。この絵は見る者を誘いながら拒絶する、あたかも処女のように、あるいは芸術のメタファーとして。
(北澤憲昭)
《帰還 Ⅶ――我々は何処へ行くのか》2010
291.0×737.6cm
薄美濃紙 アートレンジ 岩絵具 墨 箔
撮影:島村美紀
*山本直彰の《帰還 Ⅶ》は「META II 展」(2010年2月16日~2月28日、神奈川県民ホールギャラリー)に出品された。
http://www.kanakengallery.com/META_II_2010/index.html
(2010年4月4日改訂)